平面図形の世界を体験する、分かる、広げる(後段) [研究会で]
[F]円に内接する四角形と三角比を組み合わせる
三角比を習うまでに平面図形領域が終わっていれば、三角比の正弦定理、余弦定理、面積公式などを用いれば様々な授業展開の可能性が広がる。
例えば、図11でAE,BE,CEの長さと∠BEAが分かっていれば、方べきの定理によりDEを求めることができる。
さらに、
面積公式より
(f) 対角線で区切られた三角形や四角形ABCDの面積が求まる。
また、余弦定理より
(g) 四角形ABCDの4辺の長さを求めることができる。
では、4辺の長さが与えられたらどうか?
(図12)
∠BAD=∠A,∠BCD=∠Cとして、△ABD、△CBDに余弦定理を用いれば、
.....(ウ)
.....(エ)
「円に内接する四角形の対角の和は180°」の性質を三角比を活用すると
(h) sin A=sinC cosA= -cosC だから(エ)の式は、
......(オ)
(ウ)(オ)からcosAを消去すれば、
(i) 対角線BDの長さ を求めることができる。
また、(ウ)(オ)からBDを消去すれば、
(j) cosA が求まるから、
により
(k) sinA が求まる。
そこで面積公式 を用いれば、
(l)△ABD,△CDBの面積 , 四角形ABCDの面積を求めることができる。
△ABDに正弦定理 を用いれば、
(m)四角形ABCDの内接する円の半径R を求めることができる。
その他、次の値も求めることも可能である。
(n) 図4で、AE,BE,CE,DEの長さ
(o) sin∠BACなど辺と対角線なす角の正弦
(p) cos∠ABEなど2本の対角線のなす角の余弦
(q) 対角線で区切られた4つの三角形の面積
以上のことから円に内接する四角形では、4辺の長さえ分かれば、図11にあらわれる図形的な値のほとんどを計算出来ることが分かる。
[G]トレミーの定理から加法定理を証明する
トレミーの定理による加法定理の証明は明快であり、歴史的にも由緒正しい方法でもあると思う。以下の証明は、アルマゲストの著述とは少し違うが授業では分かり易いだろう。
まず、直径1の円に内接し、対角線の1本が直径となる四角形を用意する。
(図13)
AB=cosα、BC=sinα
AD=cosβ、CD=sinβ
はあきらか、
△ABDに正弦定理をもちいると
だからBD=sin(α+β)が分かる。
ここでトレミーの定理を用いると
1×sin(α+β)=cosα×sinβ+sinα×cosβ
よって
(r) sin(α+β)=sinα・cosβ+cosα・sinβ
(証明終わり)
[H]三角表の完成へ
現在の指導要領の三角比・三角関数は30°45°60°などの角度がほとんどで三角表を活用する場面が少ない。三角表を古代の人がどうやって作ったかを学ぶことで、三角表の意義を理解できるだろう。
加法定理から半角の公式を導けば、15°、7.5°あるいは、22.5°の三角比を求めることは容易である
トレミーは、72°の三角比からさらに細かい角度の三角比を求めているが、ここでは、正五角形を用いた36°の三角比を求め方を紹介する。
図14は、一辺の長さが1の正五角形である。
正五角形の内角は、108°だから∠BAC=108°÷3=36°
ここで、対角線ACの長さを*とすると、
△ABF∽△ACB だからAB:AC=AF:ABより
1:x=(x-1):1
△ABCに余弦定理を用いて
36°-30°=6°だから加法定理を用いて、6°の三角比を求めることができる。ここに半角の公式を用いれば、3°さらには、1.5°の三角比も求めることができる。
【4】平面図形領域の可能性
平面図形領域は、現在の教員の大半が高校時代に教わっておらず幾分かの苦手意識の中で指導しているように思う。一方、数学Aの教科書には昔ながらの初等幾何を思わせる記述が多い。
しかし、平面図形領域は他領域へのダイナミックなアプローチになることはトレミーの定理・加法定理の関係を見れば明らかである。また、平面図形領域の指導法は、円に内接する四角形と平行四辺形の関係の対称性を見れば、まだまだ工夫できそうだ。 現場の教員それぞれが、過去の初等幾何の遺産を受け継ぐ一方で、過去に捉われず、新たな研究・工夫をすることで平面図形は微分積分に負けない高校数学の主役になれるように思う。
参考文献
オリガミクス 芳賀和夫著 日本評論社刊
アルマゲスト 薮内 清訳 恒星社刊
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